建っているのに住めない家~水中電界~

M.宮城
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Those houses are looking safe, but can't live there
-Electrolysis by the seawater-

多賀城市文化センターでの2か月の避難生活を経て、集合住宅に移りようやく少し落ち着いたという友人を尋ねました。津波をまともにくらって2日半海水に浸かっていたという家も見せてもらいました。

どっしりと立派な構えのその木造家屋は、海岸線から3kmほど内陸の市街地の中心にあります。多賀城駅からは車で10分かからない距離です。

駅でまず気付いたのは、プンと鼻をつく腐敗臭の混じった潮の香り。
嘗て一人住まいをしたこともある多賀城市は私もよく知っています。
しかし現在のそこは、まるで干潟の中に街があるかのようです。

友人宅に着いてみると、散在した家具や汚泥も除去されおおかた片付いていました。
4人家族全員で2ヶ月がかりで撤去作業を行った結果です。
そして家の内へ。

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一階は完全に水没し、鴨居にはくっきりと浸水の痕。
しかし二階は無事でした。家の造りも見るからに頑丈そうです。

この家を見た人は、おそらく大半がこう思ったでしょう。
「きれいに掃除や修理をすれば、何とか元の生活を取り戻せそうだ?」
しかし、その家はすでに解体を待つばかりでした。

ふと周辺に眼を移せば、半倒壊でもなく、同じように一見まだ住めそうな家屋が数多く建ち並んでいます。
実際、避難所を出て自宅の二階へ戻っていった家族もかなりの数あったようです。
しかし大半の避難世帯は、まだちゃんと建っている我が家を苦渋の決断で諦めました。

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なぜなのか?
無論こびりついた匂いのせいではありません。
それらはすでに住めない家、危険な家に変わってしまっていたからです。

繰り返す津波で2日半もの間停滞した水、しかも塩水であった事が原因でした。

「お気に入りのジーパンを救出してね。それを洗って穿こうとしたらボタンや金具が全てボロボロだった」

金属が長時間水に浸かる事で電気分解され脆くなる現象。
"水中電界"です。

鉄筋・鉄骨だけではありません。家の支柱を支える合金製の留め金など、あらゆる金属が海水で電解します。そのため船舶用エンジンなどでは、"犠牲金属(より電解し易い金属を電気的に接続し、身代りに崩壊される金属)"というものが使われます。
つまり外目には良さそうに思える家でも土台そのものが脆くなっていて、人が住むには大変危険な状態なのです。

「どんなにそこに居ては危険と注意されてもね、諦め切れない。そういう人達は多いよ」

せつない言葉でした。
住み慣れた我が家。一生を過ごすはずだった家を突然追われるという事。
それは経験した者にしか決してわからないに違いありません。



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このページは、M.宮城2011年7月 9日 17:47に書いたブログ記事です。

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