読書の秋、興味深い本を紹介したい。『半蔵門の群狼』というタイトルの本である。半蔵門は内堀通から皇居に入る門で、かつてこのそば(東京・千代田区麹町)に飛ぶ鳥を落とす勢いのIT企業があった。著者はその広報担当だった人である。
話は昭和37年(1962年)、著者が名古屋から上京してこの会社で働き始めるところから始まる。わが国の近代化が始まった時代であり(東京オリンピックの開催が1964年)、コンピュータ利用の黎明期でもある。
このIT企業は鍵谷武雄という超個性的な社長が創業した高千穂交易。社員十数人の同社が米国のコンピュータメーカー「バロース」(現ユニシス)の日本総代理店となり、華々しい活動を展開して社員数千人にまで膨れ上がる。
急成長の要因にはわが国の高度成長、鍵谷社長の強烈なリーダーシップの下、社員たちのモーレツな働きぶりがあった。個性的な鍵谷社長は、半蔵門のお濠に毎年、源氏ボタルを放流したり、黒沢明監督による初の日米合同制作映画「トラ・トラ・トラ!」のヒーロー山本五十六役に、黒沢監督直々の懇請で出演する(最終的には黒沢監督と米側のトラブルで"鍵谷五十六"は実現しなかった)。
高千穂交易はその後、日本経済を襲った構造不況や土地投機の破綻といった要因から米バロースに買収され、IT産業の舞台から姿を消すことになる。生まれたときからパソコンがあった世代には隔世の感があろう。だが、この本に書かれていることはまぎれもない事実であり、コンピュータがパソコンとしてコモディティ化するまでにはさまざまなドラマがあり、数多の先人の頑張りがあったということを知る上でも、本書は一読に値する。
ちなみに著者の加藤洋一さんは現在、東京・麹町で広報宣伝を主業務とするピーアンドピービューロゥという会社を経営している。四谷駅近くに「しんみち通り」という飲食店街があり、ここに「たかはし」という小料理屋があるが、加藤さんはここの常連である。ふらりと訪ねてみれば、加藤さんに逢えるかもしれない。
〈ハードカバー:2,000円〉
※興味のある人は、直接問合せてみるとよいだろう(書店では購入不可)。
(株)P&Pビューロゥ PR事業部 TEL:03-3261-8981(代)
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